Sちゃんが死んだ7階の個室には翌日になるとまた新たな患者が入院してきた。肺炎の老婆だった。いつものように医長が主治医、U医師が担当医というかたちで診療にあたった。彼女は老いてはいたが、若い頃はさぞかし美しかったろうと思われる目鼻立ちの整った患者だった。肺炎は両肺に広がっていたが、抗生物質の点滴がよく効き、血液の炎症反応も順調に低下していった。入院して1週間目の午後、老婆は回診に出向いたU医師に、「先生。なんだか私、今夜あたりダメになりそうな気がしますので、家の者を呼んで下さい」と、張りのある声で言った。「なにを言ってるんですか。肺炎はよくなっていますし、ごはんだって食べられるようになってるじゃないですか。しっかりしなくちゃだめですよ」U医師はありのままの事実を告げて老婆を励ました。「なんて申しますか、虫が知らせろって言いますか、そんな気がするもんで」老婆はそれ以上くどくU医師に迫りはしなかった。ナースセンターにもどって医長に老婆の話をすると、「老人の言うことは当たることがあるからなあ」と、鼻で笑っていた。「そんなもんですかねえ」と、口もとだけで笑い返したU医師はすぐに老婆の存在を忘れた。