基本的な学力がまだ不足している

2011.09.08

春休みの間にI君はアルバイトをした。その間は特に不安感もなく、食欲も普段の調子に戻っていた。少し安心していた。ところが予備校での生活が始まるや否や、あの何ともいえない不安感が顔を出すようになった。四月末、I君がカウンセリング室にやってきた。「自分は強いほうだと思っていたのに、あがるなんて……。今まで僕は、自分に自信を持っているタイプだったんです。作家になって、株で当てて、大金持ちになって、政界に進出するんだ、なんて夢を描いていたんです。それが今は、すべてのことを悲観的にしか考えられません。予備校の授業に出ている時も、また「あれ」がくるんじゃないか?とピクピクしている始末です。家でも、勉強しようとすると、決まって緊張してきて、体が宙に浮いたような感じになって、勉強に集中することができないんです……」浮かべた笑みに自嘲が貼りついていた。I君には二つの異なった問題があるように思われた。一つは「試験恐怖」であり、もう一つは自宅学習での「集中困難」である。これらは互いに関連し合っている問題だが、カウンセラーは、これを別々に扱ったほうがよいと考えた。I君はR大学の国語の試験に、ある程度「自信をもって臨んだ」といっているが、高校時代の生活ぶりや成績から考えて、この自信は現実に裏打ちされたものであるとはいい難い。「試験にあがったから落ちた。だからそれをなんとかすればいい」と考えているようだったが、基本的な学力がまだ不足しているという問題から目を背けているきらいがある……。