到着したのは、瀋陽駅前の広場だった。二十階はある高いビルに囲まれた一画だった。瀋陽といえば、受験参考書のなかに躍っていた旧名の奉天とか清朝を立てたヌルハチといった名前が蘇ってくる。僕にとってははじめての街で、ゆっくり故宮を訪ねてみたい……という思いはあるのだが、広場には北京行きのバスやその切符を売る窓口がいくつも並んでいるのだ。乗り継ぎはいいのだが、「このバスに乗ったら、明日の朝は北京に着いてしまうのか」と愚痴のひとつも出てしまう。
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しかし今回の目的地のバンコクはまだ遠い彼方に思え、結局、夜の九時半に出発し、早朝に北京に着くバス切符を百五十元で買ってしまうのだった。こういう者を生真面目な旅人とでもいうのだろうか。北京までは六百五十五キロの距離があった。臥舗車という寝台バスもあったが、バスが古く、H君が二の足を踏み、背が後ろに倒れるだけのバスを選んだ。結果的にはこれが正解だった。乗客は半分にも満たず、中国人はこういうバスに慣れてきたのか、勝手に車内に散らばって体を横にする。僕らもそれに倣うことにした。